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3月, 2025の投稿を表示しています

第11章の3は長期的な影響として物質使用や乱用をもたらすことがある

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 第 11 章の 3 は性加害による長期的な症状や影響で す。 症状や影響は Sequela の訳です。 辞書では後遺症ですが。   ここでは長期的な影響として、 身体症状と不安、感情障害と自殺のリスク、物質 使用と乱用、 摂食障害、被害者の家族 などがとりあげられています。 性加害は 幅広い領域にわたって長期間、重篤な影響を加えつづけます。  ” 物質 使用と乱用”では、大量飲酒 や物質乱用に向かうのは、 「身体症状や 抑うつに対する自己治療 、あるいはリラックスするために過度の過敏さと不安から逃れる」 (p.173) のどちらかに関連しているかもしれないと指摘されています。  ここでいう「自己治療」とは自己治療仮説といわれ、薬物やアルコールなど物質に頼るのは「 心理的苦悩を緩和し、多少なりともしのぎやすくする」 (カンツイアン & アルバニーズ 2013 p.157) ためであるとする説です。薬物やアルコールなどは、よい気分や心地よさを求めではなく、心理的な苦痛を和らげるためだというのです。こうした方法は一時的で依存性を強める危険があり、良い方法とは言えません。被害者には二重の苦しみがもたらされる可能性があります。  感情的なストレスがかかると、ストレスにも感情にも負けないようにコントロールしようとする、さらに他者・状況・環境に対するコントロールの感覚を取り戻そうとします。コントロール願望が強まります。「 助けがない感覚を和らげるために外部のコントロール源」、つまりアルコールや物質を求め、それらによって気分が良くなったと空想のうえで解決します。 こうした思考のパターンは、 性加害サイクルで観察されたパターンと似ていると指摘しています。  一方で、 問題行動といわれるものの背後に被害体験の存在に気づくのは稀ではありません。  性加害サイクルは本書の中心テーマです。サイクルは時間経過における認知、感情、行動の円環の連鎖を表す考え方で、直線的な因果関係をしめす概念ではありません。また、空想による解決という表現も本書のキーワードの一つです。  必要なのは、感情にストレスがかかっているとの気づき、その不快な状況に対する健康的な対処法の獲得です。助けがないという感覚に対するケアも重要です。 『人はなぜ依存症になるか ー自己治療としてのアデイクション』エドワード・J・カンツイ...

第11章の2は性加害による短期的な影響です。

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  第11章の1は全般的な影響でしたが、2は性加害による短期的な影響です。短期的というのは軽微だという意味ではなく、即時にあらわれるという意味です。第11章のタイトルは「 被害者と加害者にとっての結果の重大性」 (pp.167-182 ;以下( )は当該ページを示します) ですが、前々回のタイトルの表記には、”にとって”が抜けていましたので修正します。  被害者がすぐに取りかかることは、加害の否定で マイナス面から身を守ることです。加害された意味や目的が自己や自分の世界観とつながるのを止めるには「認識しないこと denial 」 (p.171) だと強調します 。そのためには、解離、記憶の切り離し、なにも起こらなかった ( 夢だった )、性の要素を最小にする、などは被害の体験に圧倒されるのを防ぐ「効果的な否認」 (p.171) だと指摘します 。身体や精神がやむなく起こす対処法です。  次に取りかかるのは、失なわれたことを 取りもどす ことです。コントロール力をそがれパワーを失うと、 頼るものがないという 感覚を受けいれるか 、それとも制するしかないところに追いこまれます 。 大変厳しい局面です。 そこに報復という考え方が反応します。周囲の人も感情の渦にのみこまれて、この考え方を強め、支持するかもしれません。  助けがないという感覚を乗りこえ、コントロールを取りもどそうとして「行動化 acting-out 」 (p.171) するとの報告もあります。   「行動化   acting-out 」とは、米国心理学会   American Psychological Association では、 「①感情を行動で表現することで、その感情に伴う緊張を和らげたり、その感情を隠蔽した、あるいは間接的な方法で他人に伝えたりすること。このような行動には、口論、けんか、盗み、脅し、かんしゃくなどが含まれる。②精神分析理論では、無意識の感情的葛藤、感情、欲求ーしばしば性的または攻撃的ーを表現するものとして、過去の出来事を再現すること」( Dictionary of Psychology  https://dictionary.apa.org/) と解説しています。  あえて リスクを冒すこと、戦うこと、問題行動を起こすことなども行動化...

久闊(きゅうかつ)通信はじめましてー『性暴力「起きた後/起こる前」に支援者は何ができるか?』ご紹介

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このたび、久闊きゅうかつ通信に投稿します、心理士のちえです。 児童福祉、障害児者福祉の公的機関で心理職として従事したのち、現在は、カウンセリングルームのほかに、障害福祉支援施設、矯正施設、支援学校、精神保健機関等で心理臨床に携わっています。 今回、初めてのブログ投稿です。この久闊きゅうかつ通信の主と一緒に取り組んでまいりました様々な研究活動を中心に紹介させていただけたらと思っております。まさしく、久闊となると思われますが、ゆるりと続けてまいります。 さっそくですが、金剛出版より、専門誌『臨床心理学』146巻第2号が発刊されました。特集は『性暴力ー「起きた後/起こる前」に支援者は何ができるか?』 心理臨床家のなかにも学童期に包括的なセクシャリティ教育を受けていない人は多いことや、臨床心理の教育機関でも性暴力というテーマがほとんど取り扱われていない現状の中で、現場に出て初めて「性暴力」と言う問題を扱う現状を、遠ざける事なく言及しています。また、心理臨床の現場においても「性暴力」を扱う際に強い抵抗が働くことも含めて、特集の題目でもある投げかけに自戒を込めた論考から始まります。後半は、「性暴力」に関わる様々な分野における取組、理解、現状が述べられています。性犯罪にかかわる法律の改正、司法面接、子どもの被害、子どもの性問題行動、女性の被害者の支援、男性の被害者の支援、LGBTQA+の被害者の支援、性暴力加害者への対応、そして終盤には、予防のための対応として、学校現場、障がい福祉領域、企業や病院におけるセクシャル・ハラスメント等、各領域での対応が取り上げられています。 この特集で「障がい福祉領域における性暴力被害者支援を考える」を執筆しました。知的障害や発達障害を中心に、障害特性と性暴力被害の関連について触れています。 障害を持つ人々は性暴力被害にあうリスクが高いとの調査・研究結果があります。障害福祉支援者には、性暴力が実は身近に多く存在すること、その影響はどんなものなのか、そして「性暴力が起きた後、起こる前」にどうすれば良いのかを知っておいてほしいと考えています。 わたしがこの特集を有意義だと思うのは、性暴力の被害者に関する論考だけではなく、性問題行動が起こる背景についてや、加害者の理解の視点と加害者への治療プログラムを解説した章が設けられていることです。そこには、性暴力加害...

第11章では最初に、性被害をうけた体験に焦点をあてます。

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 長い間ご無沙汰している、と意味の「久闊」の「闊」は、ひろい、うとい、などのほか、久しく会わない、という意味があります( 角川 新字源 改訂版 1994年 )。   第3部「未成年者による性加害の結果の重大性」の第11章「被害をうけた者と加害した者の結果の重大性」 ( GAIL RYAN) です。この章では冒頭で、性加害や行動そのものを論じるのではなく、被害をうけた者と加害した者の結果の「影響  impact」 (p.167;以下原著のページ数を示します) に焦点があると主張します。なぜならば、被害と加害の経験は「その後の発達の過程を変貌させ、人間関係をおびやかす可能性がある」 (p.179) からだと最後にしめくくります。  この章では4つのテーマを設けています。最初に 性被害をうけた体験、2として短期的な影響、3として長期化した影響や後遺症、最後に性加害の実行、に分けて論じています。 最初の 「性被害をうけた体験」では、小項目のタイトルとして裏切り、 人間関係 、セクシュアリテイ、発達、秘密 などいくつかがあげられています。  被害をうけた体験は無力感をもたらし、身体も精神も侵襲されます。これまで獲得してきた経験の蓄積や知識・認識をゆさぶるだけでなく、これから作り上げるときにも影響を及ぼす可能性があります。知識・認識は人により異なりますから、被害の経験や結果の影響は似たようなものだというのは乱暴です。 被害の経験は一人ひとり個人のレベルで理解することが原則です。  裏切りは 被害者に重篤な問題を引き起こします。加害者が身近であればあるほど、世界に対する信頼感が強ければ強いほど、トラウマになる可能性が高くなります。世界は安全で信頼でき依存できるところであり、共感に満ちており、一貫性があると思っていただけに裏切りの影響は激烈になるかもしれません。  自分に対する、世界に対する 、時間に対する、認識や見方は加害を受けたことから影響が生じます。例えば、自己を「傷のある私」 damaged goods (p.169) とみなして、自分の価値を下げ、自分の落ち度のせいだったと自分自身をステイグマ化してしまうかもしれません。 外側の世界、 つまり 人間関係では信頼することや依存することは重要なことですが、その対象が加害の側 になれば、 もっと受け入...