第11章の2は性加害による短期的な影響です。
第11章の1は全般的な影響でしたが、2は性加害による短期的な影響です。短期的というのは軽微だという意味ではなく、即時にあらわれるという意味です。第11章のタイトルは「被害者と加害者にとっての結果の重大性」(pp.167-182 ;以下( )は当該ページを示します)ですが、前々回のタイトルの表記には、”にとって”が抜けていましたので修正します。
被害者がすぐに取りかかることは、加害の否定でマイナス面から身を守ることです。加害された意味や目的が自己や自分の世界観とつながるのを止めるには「認識しないこと denial」(p.171)だと強調します。そのためには、解離、記憶の切り離し、なにも起こらなかった
(夢だった)、性の要素を最小にする、などは被害の体験に圧倒されるのを防ぐ「効果的な否認」(p.171)だと指摘します。身体や精神がやむなく起こす対処法です。次に取りかかるのは、失なわれたことを取りもどすことです。コントロール力をそがれパワーを失うと、頼るものがないという感覚を受けいれるか、それとも制するしかないところに追いこまれます。大変厳しい局面です。そこに報復という考え方が反応します。周囲の人も感情の渦にのみこまれて、この考え方を強め、支持するかもしれません。
助けがないという感覚を乗りこえ、コントロールを取りもどそうとして「行動化 acting-out」(p.171)するとの報告もあります。
「行動化 acting-out」とは、米国心理学会 American Psychological Associationでは、「①感情を行動で表現することで、その感情に伴う緊張を和らげたり、その感情を隠蔽した、あるいは間接的な方法で他人に伝えたりすること。このような行動には、口論、けんか、盗み、脅し、かんしゃくなどが含まれる。②精神分析理論では、無意識の感情的葛藤、感情、欲求ーしばしば性的または攻撃的ーを表現するものとして、過去の出来事を再現すること」(Dictionary of Psychology https://dictionary.apa.org/)と解説しています。
あえてリスクを冒すこと、戦うこと、問題行動を起こすことなども行動化同様の試みかもしれません。行動や考え方の短絡的な逸脱は、被害に圧倒されるを防ぐには役立つかもしれませんが、一時的で対処方法です。行動化は認知上のひずみをもたらすこともあります。
心的外傷後ストレス障害 PTSDとして知られている症状になると、精神的な健康をリスクにさらす危険性がもたらせます。
これまで述べたことは、被害者支援では重要であることはいうまでもありませんが、被害者体験のある加害者にもこうした影響がみられることがあります。助けがないという状況を認めたくない、コントロール力は失ってはいないという考え方にしがみつく、などが感じ取られます。
閑話休題。久闊に叙したザック・ハイタワーとガレス・レンはその後どうなったか。書くと『暗殺者の矜持』(マーク・グリーニー 伏見威蕃(訳) 早川文庫 ☆☆☆くらいか)のあらすじを明かすことになるのでやめます。この小説では、「・・・の国旗二旒が、奥の壁沿いのキャットウオークからまっすぐに垂れていた」という表現もあります。「旒(りゅう)」とは旗のたなびく部分を指し、旗を数える助数詞です。国旗の国名を書くのも少々まずい。キャットウォークとは高所にある狭い通路のことで、そこから二本の国旗がぶら下がっていた、おそらく広い室内、なにが起こるのか。ミステリーマガジンで連載が始まっている『機龍警察 漆黒社会』(月村了衛 早川書店)にも期待。 (タカシホンダ)


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