第11章では最初に、性被害をうけた体験に焦点をあてます。
長い間ご無沙汰している、と意味の「久闊」の「闊」は、ひろい、うとい、などのほか、久しく会わない、という意味があります(角川新字源改訂版 1994年)。
第3部「未成年者による性加害の結果の重大性」の第11章「被害をうけた者と加害した者の結果の重大性」(GAIL RYAN)です。この章では冒頭で、性加害や行動そのものを論じるのではなく、被害をうけた者と加害した者の結果の「影響 impact」(p.167;以下原著のページ数を示します)に焦点があると主張します。なぜならば、被害と加害の経験は「その後の発達の過程を変貌させ、人間関係をおびやかす可能性がある」(p.179)からだと最後にしめくくります。
この章では4つのテーマを設けています。最初に性被害をうけた体験、2として短期的な影響、3として長期化した影響や後遺症、最後に性加害の実行、に分けて論じています。最初の「性被害をうけた体験」では、小項目のタイトルとして裏切り、人間関係、セクシュアリテイ、発達、秘密などいくつかがあげられています。
被害をうけた体験は無力感をもたらし、身体も精神も侵襲されます。これまで獲得してきた経験の蓄積や知識・認識をゆさぶるだけでなく、これから作り上げるときにも影響を及ぼす可能性があります。知識・認識は人により異なりますから、被害の経験や結果の影響は似たようなものだというのは乱暴です。被害の経験は一人ひとり個人のレベルで理解することが原則です。
裏切りは被害者に重篤な問題を引き起こします。加害者が身近であればあるほど、世界に対する信頼感が強ければ強いほど、トラウマになる可能性が高くなります。世界は安全で信頼でき依存できるところであり、共感に満ちており、一貫性があると思っていただけに裏切りの影響は激烈になるかもしれません。
自分に対する、世界に対する、時間に対する、認識や見方は加害を受けたことから影響が生じます。例えば、自己を「傷のある私」damaged goods(p.169)とみなして、自分の価値を下げ、自分の落ち度のせいだったと自分自身をステイグマ化してしまうかもしれません。外側の世界、つまり人間関係では信頼することや依存することは重要なことですが、その対象が加害の側になれば、もっと受け入れてほしいという気もちや欲求、「養育を求める感情的欲求 emotional need for nurturance」(p.168)は、脆弱性を強めトラウマは深く重くなりかねません。
被害の経験を秘密にしたい、誰にも言えない、誰にも言いたくない、と思うかもしれません。その結果、無力感や孤立感が強くなることがあります。秘密にしている限り被害にあった感情を表現できず、被害の影響を受けた自己や世界に対する認識や見方を点検できなくなります。秘密がもたらした孤独のなかで身動きがとれなくなります。
加害者に対するアプローチは、加害行為に焦点をあてるだけでなく、このような重大な影響をもたらしたことを理解させるものなくてはなりません。

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