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『被害者を理解するための気もちの言葉エクササイズ』では誤答への対処も重要

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 『気もちの言葉エクササイズ』はあと少しで上梓できそうです。  このエクササイズでは17枚のワークシートに回答しますが、誤った回答への対処も重要です。単なる言葉のドリルではありません。  シート1.では「ときどき感じる気もちの言葉を4つ書く」という課題です。感情語を4語なら簡単だと思われるかもしれませんが、「かなしい」「うれしい」と書き、少し考えて、「重い」とか「明るい」が出てくることがあります。  「重い」には、①重量が重い、②押さえつけられているような感じで消極的な気分、③普通の程度を超えている、という意味が辞書には出てきます。感情は②だけですので、感情を表しているかを確認する必要があります。「明るい」も同様です。  気もちの言葉(感情語)かどうかを即断しにくい表現もあります。例えば、「したくない気もち」などは確かに気もちだと言いますが、感情とは言い難く、拒否(承諾しないこと)に近いと思われます。こんなときには、 見え消し を使い、あらためて別の気もちの言葉をあげるよう促します。あたまから違う!と否定しない方がやる気をそがないと思えます。  感情は過去の経験とつながっていることが多く、時には不快な経験であることもあるところから、あらためて問い直し確認する時には、慎重に行うことが必要な場合があります。   昨年の11月13日のブログですでに書いたことですが、シート4.は、「場面と感情語のマッチング」として、図のように左の場面と右のその時の感情をあらわす言葉を線で結ぶ課題です。  「家族とすごす」に対して、「不安」や「ひとちぼっち」を結びつけたとき、違和感は感じますがすぐに間違いだとはしません。多くの人はそうしたマッチングはしないと思えます。多くの人(多数派)の見方を押し返すほどの特異な経験をしたかもしれないし、多数派の見方を知らないのかもしれません。やはり、本人に慎重に確認する必要があります。  「ペットが死んだ」に対して「うれしい」とか「退屈だ」とマッチングされると言葉の知識に誤りがあるかもしれません。  回答に対しては、正誤や適否だけでなく、知識の有無や偏り、結びついた経験の内容などていねいに確かめます。同時にそれが心理支援(心理セラピー)のプロセスでもあります。『被害者の理解するための気もちの言葉エクササイズ』が言語的知識をテーマとしたワー...

『被害者の理解するための気もちの言葉エクササイズ』のキーワードの一つは知的・発達障害者です。

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  『被害者の理解するための気もちの言葉エクササイズ』のキーワードは、被害者への共感的理解、感情、オノマトペ、知的・発達障害者の4つです。これらのいくつかについては、この久闊通信やその前身の種智院大学のブログでも書いています。内容が重複することはご容赦いただき、あらためてそのいくつかをご紹介します。 われわれの刊行物はいずれも知的障害者、発達障害者を対象としています。 本多隆司・伊庭千恵 (2015) 『性問題行動のある知的障害者のための 16 ステッップ:「フットフプリント」心理教育ワークフブック 第 2 版』明石書店   本多隆司・伊庭千恵 (2016) 『性問題行動のある知的・発達障害児者の支援ガイド:性暴力被害とわたしの被害者を理解するワークブック「性暴力被害とわたしの被害者を理解するワークブック」明石書店   本多隆司・伊庭千恵 (2021) 『心理教育教材「キックスタート,トラウマを理解する」活用ガイド:問題行動のある知的・発達障害児者を支する』 明石書店(2021)  われわれは、2006年第53回小児保健学会での発表以来、ASB研究会( A nti S ocial B eviour反社会的行動研究会)と称して、知的障害者、発達障害者に対する支援の研究と実践を行っています。(今年は20+α周年)   知的障害と発達障害は重複することも多く支援の内容も共通することもありますが、知的障害とすると発達障害のほうからは関係ないとされ、逆に発達障害対象だとすると知的障害からは違うと受け取られる懸念があります。 知的・発達障害という折衷の表現にしています。   知的障害の定義は、AAIDD(American Association on Intellectual and Developmental Disabilities 米国知的・発達障害学会/協会)による「「知的機能(学習、推論などの一般的な精神能力)と適応行動(日常生活で学習し実際に行う行動)の両方に有意な制限がある状態であり、21 歳以下の年齢から始まる」(AAIDD, 2022)とされています。  感情の認知やその表出、感情語の理解や表現には障害特性による制約があります。しかし、認識が正しいかどうか、感情(語)の理解や使用が適切かどうか、表現が多いか少ない...

『被害者を理解するための気もちの言葉 エクササイズ』と腹の虫

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 「腹の虫がおさまらない」とか「虫の居所が悪い」「虫が好かない」など感情の表現に虫の手を借りた、あるいは虫のせいにした表現がたくさんあります。本の虫はいいとしても、弱虫、泣き虫はマイナスで、虫の息になると手のほどこしようがありません。  感情や気もちは外側の環境や状況に対する反応と思われることが多いですが、「虫の知らせ」(よくないことが起こりそうであると感じること)などは身体の内側から発せられたかのように思えます。感情は身体とも結びついているものだと思えます。   以前にも書いたことがありますが、戦国時代(~安土桃山時代)に作られた鍼治療の本『針聞書(はりききがり)』(九州国立博物館蔵)には多くの虫が描かれています。( https://www.j-cast.co.jp/feature/mushi/book.html )  長野(2007)によると『針聞書』には、「さまざまなハラノムシの絵とともに症状や療法、ムシたちの棲息する五臓六腑の構造・機能」が記述されており、症状別にツボの位置、五臓(生命エネルギーや心の根源を貯蔵運用する、肺、心臓、脾臓、肝臓、腎臓)と六腑(飲食物と排泄物に関わり、五臓をサポートする、胃、大腸、膀胱など)を図示し解説しています。虫は身体の調子を左右し、感情や気分にも深く関わているようです。  例えば、上の写真の肺虫 ハイムシ (p.19) は、ご飯を食べる虫で、白朮 ビャクジュツ (オケラ)を煎じて飲むと消える、肺の臓にいて腹から浮き出てよそへ行くと宿主は死ぬ、人魂に変身する、と書いてあります。  右の病気をもたらす蟯虫 ギョウチュウ (p.27) は庚申の夜に宿主から抜け出して、閻魔大王に告げ口する虫だそうで、ちなみに最近の庚申の日は12月17日、次は2月15日です。ご注意ください。   笠井(2007)によると、中国の『抱朴子』(317年 道教に強く影響した書物)に、「三尸 サンシ 」という体内にひそむ虫が庚申の夜に抜け出して告げ口する話が書かれています。寝入って告げ口されるのを防ぐために庚申の夜に徹夜で宴をする庚申待が始まり、江戸時代に盛んになったそうです。唐の時代になると上尸(頭)中尸(腹中)下尸(足)に分かれ、江戸時代には体内には肺虫、蟯虫をはじめ九虫に増え、それらがされさまざまな病をもたらすされていたらしいです。  虫の力を...

『被害者を理解するための気もちの言葉エクササイズ』ではオノマトペを活用しています

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  『被害者を理解するための気もちの言葉エクササイズ』の大きな特徴はオノマトペ(擬音語擬態語)を活用していることです。  「ぶるぶる」「しんしん」などオノマトペは、アイコン的で、対象を視覚的あるいは聴覚的に(日本語の発音で)写しとった類像性をもつ言葉だといわれています(山口, 2015)。またオノマトペが擬音語、擬態語、擬情語とも言われているように、視覚、聴覚、触覚、身体感覚などの経験ー身体性が強くー、感情や状況とのつながりが明確な表現です。  「体験の生き生きとした『イメージ』を呼び起こし強い影響を及ぼす」(Kita, 1997, p.13)という特徴を持っています。臨場感をもたらすオノマトペは、読み手に連想をもたらし参加を求める表現を備えており、自己や他者の感情への理解を容易にする言葉ではないかと思います。  また、「もぐもぐ」、「ごっくん」などの養育者から声かけを初語に先んじて乳児期から普段から耳していたかもしれません。オノマトペは日常的に日本語を使用する人(母国語話者)にとっては比較的わかりやすいのものです。一方で、オノマトペに共通する特性が見出しにくく、定義するのが難しいとわれています。こうした困難さや特殊性はそのままオノマトペの特性といえるかもしれません。秋田(2013)によりその概要をまとめました。 音韻の繰り返しが多くその40%を占めるという。「こんこん」(狐の鳴き声?)「ごんごん」(重い鐘が連続してなる)  「ころころ」(軽いものが転がる)、「ごろごろ」(重いものが転がる)では、「ころ」は一回転、「ころころ」は多回転である。音韻は象徴的で、視覚的イメージが重なりある。「きっと」、「ちょくちょく」のように何を象徴しているのかわからないものもある。 「クタクタ」と「疲労」の意味は近いが、オノマトペである「クタクタ」は、「①ひどく疲れた様子②衣服や書類、葉物の野菜などがしなびた様子③全身の力が抜けてしゃがみ込む様子」(擬音語・擬態語辞典 講談社学術文庫)など視覚経験や身体感覚に近く、独特の意味表現である。一方、「疲労」は、「①つかれること。くたびれること(②医学的説明③金属疲労の意)」(大辞林)を表し、先に述べた文脈から切り離された「分析的次元」(Kita. 1997)の意味に属している。 口語での使用が多いこと、「わんわん」「ないな...

『被害者を理解するための気もちの言葉エクササイズ』は書き込み式のワークシートです(その2)

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 前回は、学会に発表した『被害者を理解するための気もちの言葉エクササイズ』には二つのポイントがあること、ひとつは「感情のリテラシー」、もう一つは「被害者への共感的理解を深める」ことだと説明しました。他にもオノマトペや感情についての考え方など、特徴がいくつかりますが、今回はその内容をいくつか紹介します。  全部で17のワークシートから成っていますが、シート1からシート12までは「感情のリテラシー」、シート13からシート17までは被害者への共感的理解」をテーマにしています。  シート1は48の感情語のリスト、シート2は知っている感情語4語を書きます。いずれもワークシート導入のための課題です。   シート3は感情語のそれを感じた場面や状況と感情の強さについて☆を塗って示します  【例】では、わくわくした感情を感じた場面や状況を書くよう求めます。ここでは、4.5/5の強さの感情でした。頭にきた、がっかりした、うれしかった、など6つの感情について問うています。すぐには思い出せないこともありますが、その結びつきは比較的わかりやすいと思われます。時には結びつく理由がはっきりせず、分かりにくいことがあります。対象者に再質問し、回答内容によってはい社会通念などにも照らしあわせながら本人の考えを確認する必要があります   シート4では、「場面と感情語のマッチング」が課題です。左のいくつかの場面と右のその時の感情をあらわす言葉とを線で結びます。  「家族とすごす」に対して「うれしい」や「はずかしい」といった感情は理解できますが、「不安」や「ひとりぼっち」と結びつけられると、さまざまな解釈が考えられますが対象者なりの理由があるはずで、対象者に尋ねないとわからないことがあります。  また、「だれかの役にたった」が「ひとりぼっち」と結びつけられると、理由は想像しがたく確認の必要がありますが、誤認や誤学習の可能性もあります。  正誤で判断できる課題もありますが、対象者の理解や解釈、記憶などの主観を重ねあわせる面接のプロセスに似たところもたくさんあリます。この『気もちの言葉エクササイズ』が心理面接の素材となり、また補強ツールの役割をはたすところです。  シート5は「身体と感情語のマッチング」です。例のように身体に結びついた感情語はたくさんあります。正誤ははっきりしていますが、感情...

学会発表のテーマは『被害者を理解するための気もちの言葉エクササイズ』です。 (その1)

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 第44回日本心理臨床学会(神戸市)での発表タイトルは、「問題行動のある知的・発達障害者等を対象とした『被害者を理解するための気もちの言葉エクササイズ』の着想と制作」です。  テーマは被害者(他者)や自己の感情に気づき、気もちの言葉(感情語)の理解を深め、被害者への共感的な理解をすすめることです。(性)問題行動のある対象者に対する心理支援/セラピーの教材、補強ツールとしての書きこみ式のワークシート、『被害者を理解するための気もちの言葉エクササイズ』です。  この エクササイズは対象者の特性に合わせて 感情のリテラシーを強化するよう構成しています。リテラシーと は読み書き能力ですが、ある分野に関する知識やそれを活用する能力を含むことから、エクササイズでは感情語だけでなく、感情そのものを深め広げるワークシートも準備しています。   感情のリテラシーは4つの項目からなっています。 自己や被害者の感情に気づく 感情語の理解と使用を増やす 感情語の意味を正しく理解する 状況や文脈に合わせて感情語を使用する  「1. 自己や被害者の感情に気づく」、これは対象である 問題行動のある知的・発達障害者等への心理支援において常に大きな課題でした。  被害者に対する共感的な感情理解が深まりにくく、被害者が加害を受けた時の気もちを尋ねても答えられない、一方対象者自身の感情についても、意味のはっきりしない“ふつう”が多く、被害者の感情同様に“わからない”と答え、支援が停滞しました。  自分の感情や思考内容をとらえて、あるいは感じとって、その内容を表現するには、感じとる能力や表現する言語力のなどが必要です。対象者には障害による制約などがあるので、「2. 感情語の理解と使用」「3. 感情語の意味理解」「4.感情語使用」についての ワークシートも用意しました。  「1. 自己や被害者の感情に気づく」ことには、 言いたくないという抵抗感や羞恥の気もち、責められたくないという思いなどが影響しているかもしれません。しかしながら、被害者の感情や思考を想像し考えることは加害者の必須のテーマであり責務のはずです。  『気もちの言葉エクササイズ』では、さらにも 被害者への共感的理解を深めるシートを準備しました。   被害者への共感的理解を深める3つのポイントです。 加害の責任帰属の明確化 被害の影響の理...

学会への準備と参加のために更新が滞っています。

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  第44回の心理臨床学会(神戸市)の準備とポスター発表のためにこちらは長く手付かずでした。対面での発表が終わり、続いてweb大会が始まりました。  こ の発表のキーワードは、 知的/発達障害などのある加害者を対象に、 被害者(他者)や自己の感情に気づき、感情語(気もちの言葉)への理解を深め、被害者への共感的な理解をすすめることを目的にしたワークシートです。  これまでの 実践において課題となったのは,被害者に対する対象者の(共感的)感情理解が深まりにくく、被害者が加害を受けた時の気もちを想像して答えられない対象者が少ないことでした。また、対象者 / クライエント自身の感情について尋ねても、意味のはっきりしない “ ふつう ” が多く、被害者の感情同様に “ わからない ” と答え、心理支援などが停滞することがありました。加害者への支援や指導、教育において、加害者が被害者の感情や思考を想像し考えることは必須のテーマであり,同時に加害者の責務です。  対象者の特性を検討し、感情や感情を表す言葉にアプローチするためにさまざまな工夫をしています。詳細についてはあらためご紹介します。               タカシホンダ